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識者2人に聞く 国内製造業の現状と今後

エコノミスト 中京大学経済学部客員教授 内田俊宏

エコノミスト
中京大学経済学部客員教授

内田俊宏

市場構造は劇的に変わる
10年後を見据えて会場を回る

足元は人手不足の解消を

業種を問わず設備投資のマインドは高まっています。しかし能力増強を図るものではなく、省力化投資や更新需要がほとんどです。その背景には「人手不足」が挙げられます。

労働人口を支えてきた団塊の世代が高齢化で退職。一方で、政府主導の「働き方改革」によるサービス残業の低減で、さらに人手が必要になり雇用情勢はひっ迫している。企業が雇いたくても、人材が集まらないのが現状です。そうした問題を解消するため、自動化ニーズが高まり、省力化製品への投資が好調です。この流れは製造業に限らず、医療や介護でもしばらく続くと考えられます。

しかし、自動化技術がもう一段進むと、人工知能(AI)と人が一緒に仕事をする時代が来ます。今のAIは1つの作業に特化した物ですが、10年も経てば人間のように考える汎用型が普及するでしょう。その場合、就業構造や市場構造は大きく変化することが予想できます。

自動化がもたらす変化

自動化技術が進めば、生産現場だけでなく、生活においても大きな変化があります。例えば自動車です。日本は自動運転技術で出遅れていましたが、欧米市場での進展を受け、研究開発や普及に向けた法整備の準備が進み始めています。

しかし完全な自動運転になると、モノのインターネット(IoT)でつながり、AIなどのシステム構築が重要になります。米国のグーグルなどのIT企業が、自動車産業の市場を主動する可能性もあるわけです。大手自動車メーカーがティア1のポジションになるリスクもあり、これまで通りの利益を出すことは難しくなります。一方、このまま自動車メーカー主導で発展することも考えられます。日系自動車メーカーでも、AIや自動運転のシステム開発に力を入れていますし、リニア新幹線が開通することで最先端技術を持つ中部と情報通信産業の盛んな東京がこれまで以上に連携して、付加価値を高められる可能性は十分にあります。つまり今後、市場構造は劇的に変化することが予想され、IT企業と自動車メーカーのどちらが覇権を取るかは不透明です。そのため両方の可能性を視野に入れた行動が必要になるでしょう。

MECT2017に来場する時は、現時点の人手不足を解消できる最新の省力化製品に注目するだけでなく、さらにその先の市場変化を考えながら、自社技術の転用や事業展開をイメージして各社ブースの技術を見てはいかがでしょうか。これまでなかった市場が迫っている今だからこそ、さまざまな情報に接することが戦略上も重要になります。

(聞き手・渡部隆寛)


中部大学特任教授

細川昌彦

好況に酔いしれてはいけない
異業種の鋭い経営者がつながりを

中部大学特任教授 細川昌彦

産学連携で人材獲得を

日本の製造業が直面する課題が、この地域に凝縮している。10年以上前に「グレーター・ナゴヤ」を提唱し、書いた本でこう表現しました。愛知、岐阜、三重は日本経済を凝縮した「濃縮ジュース」と。日本の強みも弱みも顕著に表れる。景気の良さと、課題の人手不足も強烈に顕在化した。中部圏が今後どんな手を打つかは日本全体の課題でもあります。

この地域は留学生が少なすぎる。日本全体が遅れているが、濃縮ジュースのこの地域は特に。東京圏では留学生の比率が5~6%だが、名古屋圏は3%台で大阪圏にも負ける。大学できちんと学ばせ、この地域の企業がインターンで受け入れて「将来の戦力に使う」戦略性が必要。受け入れの意識ではなく「獲得」です。大学は「やっている」と言うが甘い。留学生は全国に20万人いるが、この地域には1万3000人しかおらず、やっているうちに入らない。

工作機械やロボット、エレクトロニクス分野の各メーカーで労働力になるだけでなく、海外展開時の貴重な戦力になる。現地の人脈や親類縁者がいるか、留学生を核とした人のネットワークを生かす企業とそうでない企業とでは大きな差が出る。新興国では特に。「留学生の戦略的活用」を産学連携で取り組むんです。

独のPF制覇に危機感を

さらにこの業界にとって大事なのは、経済産業省が進める「コネクテッド・インダストリーズ」への対応です。ドイツのインダストリー4.0などを念頭に置き、日本企業は何を考えなければならないのか。このままでは、ドイツにプラットフォーム(PF)を押さえられてしまう。工作機械やロボット、エレクトロニクスが業界ごとにバラバラではダメです。また「業界皆で」「工業会としてどうする」ではなく、危機感を持った感覚が鋭い経営者だけでいい。そういう人たちが業界横断的に集まって日本版PFのモデルケースを仕掛けていけるか、大事な段階に来ている。異なる業界と「つながる」発想で、PFを押さえる必要がある。「ドイツのPFを使えばいい」という人もいるでしょうが、それは日本がドイツの下請けになるということです。

ドイツではシーメンスにしろ、ボッシュにしろ、動きはものすごく早い。本来は違う業界だったはずが、今や両社がPF作りで競い合っている。日本もこれに対抗するには役所の主導ではなく、異なる業界の、研ぎ澄まされた経営者同士がつながる。そういった仕掛けづくりが必要でしょう。MECTも従来型の商談だけでなく、そういった出会いの場にしてほしい。展示会場の隅で、熱く話し合ってはどうでしょうか。

(聞き手・長谷川 仁)

(月刊生産財マーケティング10月号特集より)

月刊 生産財マーケティング

ニュースダイジェスト社が発行する設備財関連の専門誌。2014年で創刊50年の節目を迎えた。世界の業界情報。国内外の工作機械展レポート、最新の工業統計など資料価値も高く、業界から高い評価を得ている。

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