民間企業の宇宙ビジネスへの参入が増えつつある。そうした時代の流れを踏まえ、今年10月に開催されるメカトロテックジャパン(MECT)2017の主催者特別企画「コンセプトゾーン」では、宇宙をテーマにロケットや人工衛星で使われる部品を2種類、実演加工をする。それぞれの加工を通じて、どのような技術やポイントが宇宙分野への参入に必要となるかを紹介する。
月刊生産財マーケティング9月号特集では、製造業から見た宇宙ビジネスについて取り上げた詳細はこちら
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【ゾーンA】最新の人工衛星部品を削る
協力:アストロスケール、オーエスジー、安田工業
概要:宇宙ゴミ(デブリ)観測用人工衛星「IDEA(イデア)OSG1」のアダプターを5軸マシニングセンタ(MC)で加工。
「人工衛星が宇宙に行った後では、部品を再加工することもできない。だからこそ、製造段階で最善を尽くし、求められる1段上の精度の製品作りを心がける」。そう話すのは、観測衛星の打ち上げを目指すアストロスケールから部品製造を任されたオーエスジーの藤井尉仁さんだ。
人工衛星のアダプター(=写真①)はリング状のシンプルな形だ。しかし宇宙空間でのロケットと人工衛星を接地部分のため、高い面精度が求められる。さらに、軽量化目的で、余分な部分を極力なくした設計であるため、クランプする場所も限られ、加工が難しい。また削るほどにワーク自体の剛性も下がるため、保持の仕方や切削条件、削り取るの順番を工夫して、できるだけワーク本体に負荷をかけず、加工後のひずみによる精度誤差がないようにする必要がある。
アダプター加工は、①クランプするための溝加工、②全輪郭と基準面を加工する表側、③穴開けや軽量化のための裏側の肉抜き――の3工程だ。「どのように加工するかなど全体の戦略を組み立てることが大変で、人によってセンスやノウハウが違う」と藤井さん。「加工の成功率を高めるのは、どれだけ準備をするかで決まる」と強調する。
例えば今回は20本ほどの工具を使用するが、それぞれの工具をどのタイミングで、どのように使用するかを加工前に決める必要がある。別のアプローチでも部品製造はできるが、ワークの剛性が下がりひずみが発生したり、工程数が増えることで段取り替えに時間がかかることもある。
そうした加工を支えるのが安田工業の5軸MCだ。アダプター加工は全体で25時間ほどかかり、2工程目が全体の7割近くを占める。長時間の加工でも精度を維持できる機械が求められる。また、全体の95%ほどを3軸加工が占めるが「5軸を使う価値はある」と藤井さん。「芯出しや平行出しの信頼性が高く、表裏での位置合わせが正確にできる。ワークの段取りが早くできる」と利点を説明する。
【ゾーンB】宇宙で活躍する町工場の技
協力:由紀精密、DMG森精機
概要:MECTのために新たに設計したロケットエンジン(スラスター)のインジェクターを複合加工機で加工。
インジェクター(=写真②)とは液体燃料ロケットの燃料と酸化剤を噴射して混ぜる噴射器のことを指す。細い物では直径0.4mm、太い物では直径2mm、大小合わせて56個の穴が開いている。使用する素材は難削材のインコネルで、細くて長い穴加工が今回のポイントになる。由紀精密では、機械や工具、加工工程、条件などの要素技術を追求することで、インコネルに直径0.4~2mmの精密な穴加工を実現した。
「今回の加工は、これまでの難削材精密加工のノウハウを生かして実現した」と由紀精密の八木大三さんは話す。同社が培った技術やノウハウと、高精度な機械や加工に合った工具を組み合わせることで、これまで多くの難加工をクリアしてきた。
今回は、正確な斜め移動ができるDMG森精機の複合加工機を導入し、3軸加工で苦労したインジェクターの斜め穴を精度良く加工できるようになった。さらに背面加工を利用し、一台の機械で全工程を自動運転で賄えるため、生産コストも抑えられるという。
「精密な複雑形状を工程集約して加工できるようになり、宇宙関連に限らず、顧客の設計の自由度が広がった」と八木さんは強調する。複合加工機導入にともなう加工方法の開発で、対応できる幅を広げられ「これまで難しかった依頼も解決できるかもしれない」とビジネスの広がりを期待する。
宇宙関連の部品は少量生産で、信頼性や性能が重視されるが、同じくらい大切なのは「製造視点からの提案力」(八木さん)だ。部品のプロトタイプで性能を満たす必要があり、試作で求められるレベルが高いのも特徴だという。由紀精密では、これまでフットワークを軽く取り組んだり、蓄積された技術や設計を生かし、加工技術の視点からコストを抑えられる設計なども提案できることを強みとする。2006年に立ち上げた開発部でも宇宙関連機器の設計を請け負う。
「宇宙関連の部品加工だからといって、全てに新しい加工方法が必要なわけではない。金属加工の技術やノウハウを宇宙分野に応用できたから、宇宙関連の仕事につながった」と八木さんは語る。
(月刊生産財マーケティング編集部)
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