「諸外国に比べて国内の回復はゆるやか。コロナ禍以外のリスクも多く、下期は一進一退が続く」とヤマザキマザックの山崎高嗣社長はみる。しかし「伸びしろのある市場はいくつもある。いい機械、いい提案を持っていけば自助努力で市場は切り開ける」とし、「今のマザックを知っていただくいい機会」とMECTに期待を込める。
――国内の市場動向を教えてください。
今年7月の受注実績は、前年同月比で工作機械が3倍、レーザ加工機は2倍でした。いずれも6月ごろからの数カ月間で急上昇しています。新型コロナウイルス向けのワクチン接種率が上がるにつれ投資マインドも改善しています。けん引役は半導体関連産業で、工作機械の発注スピードがどんどん加速しています。大型機よりは中型機や小型機が伸びていて、小型で高精度な部品加工向けに、複合加工機や5軸マシニングセンタに自動化システムを搭載したものが人気です。
――自動車産業はいかがでしょうか。
まだ低調です。ただこのところ顧客ニーズそのものが変化していると感じます。電動化はどんどん進むでしょうし、事実、いろいろな関連プロジェクトが動き始めています。一方、エンジン車の生産も当面は続きますが、一定の大量生産期を過ぎれば減少期に入ります。つまり小ロット生産への移行が進むため、大型の専用ラインではなく、複合加工機で工程集約して生産設備をスリム化する需要が発生します。補修パーツも長期にわたって作る必要があり、工程集約機のニーズの高まりを実感しています。
――レーザ加工機の需要も伸びている。
これまで2Dレーザ加工機で半導体製造装置などの外装板金加工を手掛けていたお客さまが、3Dレーザ加工機の導入で架台フレーム加工も取り込み、一貫請負体制を構築するような動きが見られます。ウィズコロナの厳しい状況下でも、お客さまによっては補助金などの国の支援をうまく活用し、新しい取り組みにチャレンジしています。この秋にはさらなる新機種を投入予定なのでご期待ください。
――国内市場の今後の見通しをお願いします。
伸びているとはいえ、諸外国に比べると回復のペースはゆるやかです。また、コロナ変異株の流行だけでなく、資源の高騰、米中摩擦などリスクは数多く楽観はできません。今年下半期の工作機械需要は一進一退が続くとみています。
――その環境下でどのような手を打ちますか。
伸びしろのある市場はいくつもあります。例えば環境関連需要です。風力発電機の大型ギア加工向けには複合加工機、ソーラーパネルの架台向けには3Dレーザ加工機などを提案しています。伸びる市場にいい機械、いい提案を持っていけば自助努力で市場は切り開けます。もちろん自動車の電動化もそうです。実は電動化は自動車だけでなく、農業機械や建設機械にも波及しています。複雑形状部品の小ロット生産が増えるので複合加工機を活用していただける場面も多くなると期待しています。電動化は大きなチャンスです。
――商談で省エネルギーに関する要望は増えていますか。
かなりの勢いで増えています。国内もそうですが欧州が一層強い印象です。工作機械メーカーとしてのスタンス、環境問題に対する取り組みが、設備の購入先として適当かどうか判断される基準になっています。逆に言えば、そこがしっかりしていないメーカーは、今後はふるいにかけられるでしょう。
――そうした環境下で10月20日から名古屋市内でMECT2021が開催されます。
エンジン車の部品を加工しているお客さまでも、今後電動化でどんな部品が必要になるか知らない、どう作ればいいか分からないと言う方は多いです。わが社は日本や中国などで電動車部品の加工提案実績があるので、お見せできる範囲で「電動化で部品はこうなる」「こんな加工が必要になる」と、具体的な内容をMECT会場でお見せするつもりです。
――展示の見どころは。
「STX-2412」という新型のレーザ加工機を披露する予定です。国内外で累計数千台の販売実績があるモデルですが、発振器をCO₂からファイバーレーザーに載せ替えました。それにより電力消費量は80%削減されます。「環境対応」「脱炭素」が叫ばれる今、アピールポイントとして分かりやすいでしょう。今後もこのような省エネにつながる機械を開発し、お客さまのCO₂排出削減に貢献します。
――「環境」以外に展示テーマはありますか。
「デジタル製造」と「自動化」です。まずデジタル製造ですが、最新のNC装置「マザトロール・スムースAi」で加工プログラム自動生成機能「ソリッドマザトロール」を体験できます。これはCADデータを取り込むと、数十秒ほどで加工プログラムが生成されるものです。わが社は“現場での段取り作業ゼロ”を目指しており、オフィスのパソコン上での高精度な加工段取りを推進しています。これをわが社では「デジタル段取り」と呼んでいます。ソリッドマザトロールはデジタル段取りを実現する中核機能の一つであり、その有用性を来場者の方にぜひ体験していただきたいです。「自動化」については、協働ロボットを搭載したシステム「イージーローダー10」を出展します。機械の前に移設して15分で立ち上げられるので、異なる機種間で共有可能です。
――国内の大型工作機械展は2年ぶりです。
見る方も出る方も、誰もがうずうずしていますよね。期待が大きいだけに、わが社のブースに来ていただいた方には「良かった」と言っていただけるようしっかり準備します。後々の商談につなげたいですし、今のマザックを知っていただく良い機会になればいいと思っています。
- <プロフィール>
- やまざき・たかし
- 1987年米ザビエル大学経営学部卒。90年ヤマザキマザック入社。96年ヤマザキマザックシンガポール社長。99年ヤマザキマザック常務営業副本部長、2000年営業本部長、01年専務、13年副社長、19年から現職。愛知県出身。1962年生まれの58歳。
MECT2021の公式メディア
ニュースダイジェスト社が発行する工作機械を中心にした設備財関連の専門誌。2021年で創刊58年目を迎えた。世界の業界情報や国内外の工作機械展レポート、最新の工業統計などを掲載する。資料価値も高く、業界から高い評価を得ており、20年からは電子版の発刊も始めた。「月刊生産財マーケティング」について、詳しくはこちらから
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