透明な昆虫を切削で再現
微細加工の「技術の玉手箱」
主催者企画展示(コンセプトゾーン、CZ)では「驚きのスゴ技」と題し、3種類のユニークな加工技術を紹介する。樹脂部品の微細精密加工を得意とするJpキュービック(愛知県豊川市、伊藤雅彦社長)は、加工難易度が高いとされるアクリル製の昆虫サンプルの加工デモを披露する。会場ではアクリル製の複雑形状ワークを切削加工だけで透明に仕上げ、微細加工の技術力をアピールする構えだ。伊藤社長は「微細加工に必要な要素を全て盛り込んだ。まさに『技術の玉手箱』のような展示」と語る。
美しく、透明で、リアル
思わず息をのむほど美しく、透明で、リアルなアクリル製の昆虫――。
MECT2023のCZでは、透明なアクリル製の昆虫サンプルが飾られたジオラマが披露される。森をイメージした装飾と共に、リアルな昆虫の姿が間近で楽しめる。
無骨なイメージが強い従来の工作機械見本市の展示物とは一線を画すだけに、多くの来場者の注目を集めそうだ。
これらの昆虫を制作したのは、樹脂部品の微細精密加工の“スゴ技”を持つJpキュービック。伊藤社長は「高精度、鏡面、透明、バリレスなどの微細加工に必要な要素を昆虫サンプルの中に全て盛り込んだ。まさに『技術の玉手箱』のような展示」と強調する。
会場には碌々スマートテクノロジー株式会社(東京都港区、矢野雄介社長)の微細加工機「Android(アンドロイド)Ⅱ」も設置し、一部の昆虫サンプルの加工デモも実施する。
加工対象の昆虫サンプルは、ちょっと触れただけで折れそうなほど繊細な「クモの巣」をはじめ、触覚や爪など細部まで忠実に作り込まれた「クモ」や「クワガタ」の計3種類。
会期初日と3日目にはクモの巣とクモ、2日目と4日目はクワガタの加工デモをそれぞれ実施する計画だ。
加工もクランプも全て披露
CZにも設置する碌々スマートテクノロジー株式会社の微細加工機「AndroidⅡ」
「昆虫は形状が複雑で、細部まで忠実に再現するには高い加工技術が求められる。しかも、アクリルを素材として使用しているため、なおさら加工が難しい」と伊藤社長は話す。
アクリルはもろくて割れやすく、欠けやすい特徴を持つ素材だ。また、切削加工時の摩擦熱などの影響で白く曇りやすい性質もあり、透明にするには磨きの工程も欠かせない。
Jpキュービックが手掛ける昆虫サンプルは、クモだと胴体長が13.9mm、幅が3.9mm、クワガタだと全長が36.5mm、幅が12.6mm、厚みが6.2mmとサイズが小さい。
加えて、触覚や爪など細い部分が多く、そもそも物理的に磨くことができない。バリ取り作業も同様の理由で難しいため、切削加工だけで透明さとバリレスを実現しなければならない。
「透明度を出すには切削抵抗をいかに抑えながら加工するかが重要で、切削条件をとにかく工夫した。加工難易度が高いアクリルを使っているにもかかわらず、これだけ複雑な形状を切削加工だけで透明に仕上げる微細加工の技術力を会場でアピールしたい」と伊藤社長は述べる。
CZで加工デモをする3種類の中で、最も難易度が高いのがクモの巣だという。糸の径はわずか0.1mmしかなく、それをアクリルのプレート材から削り出す。
非常に薄くて細いワークになるだけに、加工技術だけではなくクランプ技術も厳しく要求される。
会場ではこれらの技術も余すところなく全て披露する予定だ。伊藤社長は「ジグの形状自体はシンプルだが、使いこなすには相当な技術が要るため、そう簡単にはまねできない」と自信を見せる。
誰が見てもイメージできる
細部まで忠実に再現されたクワガタのサンプルも披露する(写真はイメージ)
同社は2005年の設立で、主に樹脂の高精度部品や機能部品の微細精密加工を手掛ける。競合他社にはできない難しい案件や、研究開発型の試作案件にも積極的に挑戦し、技術力を磨いてきた。
社内の加工技術の高度化にも意欲的で、昆虫サンプルのプロジェクトを始動したのもその一環だ。
数年ほど前にクモの巣を制作したのを皮切りに、クモやクワガタ、チョウなど昆虫サンプルのバリエーションを広げた。
同社はさまざまな業界に向けて自社の技術をアピールするため、年に数回のペースで展示会に出展する。技術的な要素などをふんだんに詰め込んだサンプルをブースで紹介し、その業界の来場者の興味を引くことで新規開拓につなげるのが主な戦略だという。
MECT2023で披露する昆虫サンプルはその最たる例で、伊藤社長は「特定の業界で使われる部品を展示してもその業界の関係者にしか技術的な強みやすごさが伝わらないが、昆虫なら誰が見てもイメージしやすく、興味を持ってもらいやすい。サンプル制作に取り入れた強みやすごさをより幅広い業界に発信するためにも、多くの人になじみのある昆虫をサンプルの題材に選んだ」と語る。
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