SNSと展示会で正の循環を生む
「商売感を出さない」姿勢を重視
新型コロナウイルス禍を経て、FA業界でも交流サイト(SNS)を活用する動きが広まった。中村留精密工業(石川県白山市、中村匠吾社長、1C11)もその一社で、2020年ごろからSNS戦略に本腰を入れている。同社がSNSの投稿で重視するのは「商売感を出さない」との姿勢で、他のSNSユーザーとの交流を楽しみながらつながりの輪を広げてきた。MECT2023に向けた情報発信にも既に取り組んでおり、中村社長は「SNSと展示会は連動しており、正の循環を生み出せる」と話す。
新規顧客は8割に
バナナチャレンジ、ステッカーボード――。
一見すると工作機械関連の展示会とは全く関連性がないが、中村留精密工業にとっては昨年11月に東京都で開催された第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)を象徴するキーワードとなった。
会期5日目の11月12日。SNSを通じてつながった人たちがバナナを持参して同社のブースに集まった。
業界も職種も役職も年齢もばらばらな数十人のSNSユーザーが参加し、バナナの総数も70房を超えた。
このイベントは同社が主催したわけではない。実は、とある工作機械ユーザーが「中村社長にバナナを届ける」との名目で「バナナチャレンジ」と題したオフ会を企画したのがきっかけだった。
オフ会なだけあり、SNS上では接点があってもリアルでは初対面だった人たちが多く、参加者同士が名刺交換をして交流を深める様子も随所で見られた。
また、同社のブースには、出展者や来場者が自由にステッカーを貼ったり絵を描いたりできる「ステッカーボード」も掲示された。
写真撮影もSNSへの投稿もOKだったため、ボードの前で記念写真を撮ってSNSにアップする人が目立った。
中村社長は「写真を撮れるスポットを作りたいと考え、会期前日に思い付きで企画した。正直、最初は『埋まらないだろう』と不安だったが、最終日にはステッカーや絵でボードが埋まって感動した」と振り返る。
SNSとも連動したこれら2つのユニークな企画が話題を呼び、最終的には同社のブースを訪問した新規顧客は8割に上ったという。既存顧客の来場数はほぼ従来通りだったため、新規顧客が総数を底上げした格好だ。
「複合加工機や工程集約の考え方をもっと普及させたいと考えており、これだけ多くの新規のお客さまに来てもらえたことは本当にうれしい」と中村社長は話す。
匂わせて来場を促す
JIMTOF2022最終日に全て埋まった「ステッカーボード」(写真は本社工場で撮影)
同社は短文投稿サイト「X(旧ツイッター)」や動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」といった各種SNSを駆使して情報発信に取り組む。
中村社長自身もXなどの個人アカウントを保有しており、企業公式アカウントと共に他のFAメーカーや部品加工会社との交流を楽しんでいる。
「SNSを始めたことで新製品や各種機能の情報を幅広い層のお客さまにタイムリーに届けられるようになり、最終的にはリアルの展示会やプライベートショーへの集客にもつながった。SNSと展示会は連動しており、正の循環を生み出せる」と中村社長は述べる。
SNSを使えば展示会の準備段階から展示内容を小刻みに発信できるため、SNSユーザーが来場する際の訪問先の候補に挙がりやすい。こうした「想起集合」に入る確率を高めるためのツールとしても、SNSは有効だという。
MECT2023に向けた情報発信にも既に取り組む。同社は2タレット2スピンドルCNC複合旋盤の新機種「WY-100V」を国内初披露するが、7月にはWY-100Vの概要や加工スピードの速さを紹介する動画を一足先に公開。しかし、核心となる技術にはあえて触れず、「MECT2023の会場で全てを披露する」と匂わせて視聴者に来場を促した。
この他、JIMTOF2022で話題を呼んだステッカーボードも、「メッセージボード」と名称を変えて今回も掲示する予定だ。
SNSは交流の場
「商売感を外すことこそが商いの本質」と話す中村匠吾社長
同社がSNS戦略に本腰を入れたのは20年ごろから。新製品や各種機能の情報をより幅広い顧客に発信するための販促ツールの一つとして使い始めたのがきっかけだった。
だが、中村社長は「SNSはあくまで交流の場。『商売感』は時に邪魔になる」と指摘する。そのため、SNSでは工作機械や加工技術に関する内容を中心に親しみやすい形で情報発信をしており、基本的には自社製品を売り込むような投稿はしない方針だ。
また、同社は「現場の負担を削る」とのビジョンを掲げており、現場の負担を軽減するのに役立つ内容であれば他社製の周辺機器の情報も発信する。
商売感を全面に出さず、機械や加工が好きなSNSユーザーとの交流を楽しむ――。
こうした姿勢を重視しながらSNS戦略を推進することで、つながりの輪を広げてきた。
中村社長は「SNSを『遊び』だと言う人もいるが、SNS経由で接点を持った新規のお客さまから引き合いや受注を獲得した実績もある。商売感を外すことこそが商いの本質であり、営業活動でもSNSでもこの姿勢を大切にしたい」と話す。
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