日本のへそで製造業を盛り上げる
ソリューション提案が鮮明に
海外では米国や欧州など、今年に入っても受注額が堅調に推移する地域が多い一方、国内の市況は好調だった昨年から打って変わって水平飛行になった。「自動車産業など製造業の集積地で展示会を開催し、日本の製造業を盛り上げることに大きな意義がある」と日本工作機械工業会(日工会)の稲葉善治会長はMECT2023への期待感を語る。近年、展示会のトレンドは機械などのハードだけでなく、ソリューションそのものの提案に変わりつつある。この状況下での展示の在り方や、MECTへの期待感などを稲葉会長に聞いた。
――工作機械業界の景況感はいかがでしょうか。
1年前から様変わりした印象を受けます。国外ですと、中国は市場の動きがスローになりました。米国は高金利で、中小規模のジョブショップが大きな影響を受けています。一方、大手メーカーは、計画的に設備投資を進めており、米国全体で見ると全体的に底堅さがあります。欧州も心配していた落ち込みが見られず、堅調に推移しています。インド市場は好調を維持しています。市場規模や推進力は中国や米国、欧州に劣るものの伸びしろは大きいため、これから5年後や10年後の成長が非常に楽しみですね。
――国内の景況感を教えてください。
昨年は前倒し発注が多く、非常に好調だったのですが、今は落ち着いている状況です。国内市場は落ち着いた状況から大きな変化がなく、水平飛行の状態にあります。ただ、中国市場の景況感次第で、国内市場も少し左右されるとは思います。
――調達面での不安はありますか。
現在もタイトな状況ではあるものの、材料が手に入らない状態は脱したと言えます。しかし、資材など物品のコストが高止まりしている状況です。物流に関しても、コストの急激な上昇は収まりましたが、新型コロナウイルス禍以前の金額にはまだ戻っていません。
――MECTの開催地である中部地方には製造業が集積しています。
中部地方は「日本のへそ」といわれているように、地理的に日本の中心ですし、自動車産業が集積するため、工作機械の消費地としても日本の中心といえます。
――電気自動車(EV)関連の需要が無視できなくなっています。
欧州を中心にEVにシフトしている国が増えています。それが必ずしも最適解とは限りません。どの方式が地球に対する負担が小さくて済むのかを総合的に考える必要があります。今は日本が持つハイブリッド電動車や燃料電池車などの技術の一つ一つを熟成させていく段階です。議論を尽くした上で日本から最適解を発信できれば、日本が主導権を握れると考えます。
――MECTへの期待感を教えてください。
自動車産業など製造業の集積地で工作機械の展示会を開催し、日本の製造業を盛り上げることに大きな意義があります。日本での主要な工作機械の展示会として、MECTの他に日工会が主催する日本国際工作機械見本市(JIMTOF)があります。JIMTOFは偶数年の開催のため、その間となる奇数年にMECTが開催されるのはありがたいこと。MECTとJIMTOFが、工作機械の技術を皆さんに知ってもらうための発信基地になってくれればと大きな期待を持っています。
――展示会の開催形式がコロナ禍を機に変わりました。
コロナ禍でオンライン展示会が増えましたが、リアル展で実際に機械を見て感じてもらうことは大切です。オンライン展で事前に情報を収集し、リアル展で見たいブースを見て、その後にオンライン展で情報をまとめるといった使い方をすれば、もっと充実した展示会になると考えます。最終的にはリアル展とオンライン展のハイブリッドがスタンダードになるのではないかと思います。
――展示会のトレンドに変化はありますか。
工作機械はハードを売る時代でなく、ソリューションを売る時代になったのは間違いないです。最適なソリューションを提供する上で、工作機械自体の性能と工作機械を使いこなす技術の2つが重要な要素となります。MECTの出展企業も、これらの要素をバランスよく顧客に提案していただきたいです。
――環境対応もトレンドとして挙げられます。
工作機械の製造時や使用時などさまざまなタイミングで二酸化炭素(CO₂)が排出されます。出展企業各社が、CO₂排出量をどう削減するかを全力で追求したソリューションをMECTに展示してくれることを期待しています。工作機械そのものの性能に加えて、工作機械を使いこなす技術として、自律移動型搬送ロボット(AMR)などのロボットを中心とした自動化技術や、モノのインターネット(IoT)を使えば、生産性の高さと省エネが両立可能な生産システムを構築できます。
――工作機械自体の性能では環境にどう貢献できますか。
機械の加工精度が上がれば上がるほどエネルギー効率が高まり、エネルギーの消費量が少なくなります。精度を高めるための部品を設計するために、それを研究する大学の研究室などと協力するといった産学協同を活発化させる必要があります。ドイツや米国では産学協同が活発ですが、日本はまだ活発とはいえません。産学から一歩進んで産官学協同で取り組めば、技術の開発に加えて、長期的な人材育成にもより力を入れられます。
――人材育成との点で、MECTでは学生向けの「工作機械トップセミナー2023」が開催されます。
機械メーカーの社長が講師を務める工作機械トップセミナーは、2006年に初開催し、これまでに7178名の学生が参加しました。参加者が必ずしも工作機械業界に就職するわけではありませんが、このセミナーで学んだことは今後の人生において決して無駄にならないと思います。
稲葉善治(いなば・よしはる)
1973年東京工業大学工学部機械工学科卒、いすゞ自動車入社。83年ファナック入社。89年取締役、92年常務、95年専務、2001年副社長、03年社長、16年から会長。日本ロボット工業会会長など公職多数。日工会では技術委員長、副会長などの要職を経て21年5月から現職。工学博士。1948年生まれの75歳。
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